死の杯を求めて 序話 英雄の誕生
常夜に包まれた城の中で、青年は僅かな夢から目を覚ました。
とても、楽しい夢を見た。
愛した女性と。大切な家族と。大事な友と。
ともに歩み、ともに暮らし、ともに老いる。
・・・そして、人として死ぬ生。
幻想することも憚られることを、けれどこの瞬間だけは夢想した。
苦笑しようとして、既に躯が凍っていることに気付いた。
指先一つ、動かせそうにない。
気付いてしまえば寒さは堪え難いほどに全身を侵し、慣れ親しんだ死の感触は、今度こそはとばかりにしがみ付く。
(――――――――・・・せっつかなくても、もう逃げないよ・・・―――――――――)
途切れ途切れの意識の中で、意味もないことを考える。
そのまま、意識を手放そうとして、ふと、本当に何気なく、瞳が開いた。
まず映ったのは、いつか見た覚えのある、とてもとても冷たい、白い月。
その月明かりを一身に浴びた、“彼女”
そして、彼女の胸の中心。
米粒ほどの小さな黒い点を貫いた、銀色の刃。
その手にかかった自分の腕が、まるで人形のように現実味が無くて
けれど、そこから流れてくる朱い水が、何よりも彼女の白を鮮やかにしていた。
「まさか、本当に殺しきるとはな」
疲労の濃い言葉が壊れかけの耳に届いた。驚いて振り返ろうとして、バランスを崩して転げ落ちた。
左腕と右足、というか左半身と右の下半身を根こそぎもがれていれば、そうなることは予想できたろうに。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・ぶざま、だ」
声が出る事にびっくりしたが、出るなら出たで、たいした問題があるわけでもない。
つまりは執行猶予なのだろう。
よくよく見れば、声の主であろう老人が何事か呟いたかと思うと、躯を包む寒気の速度が遅くなる。
「よけいな・・・・・・・・・」
「そういうな。主とは、まだきちんと話しておらんかったからな」
飄々とした口調で、老人は月明かりに現れた。
老人、というわりに体格はしっかりしていて、身長も高い。
しかも、いまは古代の騎士のような全身鎧を着ているものだから、この老人の正体をうっかり忘れてしまいそうなほどだ。
「やれやれ。エンハウスの馬鹿者と黒騎士の戦いを止めていたら、肝心の戦いに間に合わんとはな。まあ、魔法使いが魔王を 倒すなどどのような物語にもありはしないのだろうが」
にやりと、屈託無く笑う老人―――現存する魔法使いの一席に座るキシュア・ゼルレッチ・シュパインオーグはそう言って 青年の側にしゃがみ込んだ。
「まっこと、見事であったぞ。主の働きは永劫に語り続けられよう」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・不満、そうだぞ。じい、さん・・・・・・・・」
かすれる声。そう言えば喉を裂かれていたはずだと思い出したが、いま俺はどうやって声を出してるんだろう。
そんな疑問に老人が気付くわけも無く、けれど、その顔はどんどん渋いものになっていった。
「当然。主、あれを殺すために世界と契約したな? 」
眉根を寄せ、鼻頭の辺りに皺が出来る。この老人が長い説教を付くときの特徴だ。勘弁して欲しい。こちらはもう八割以上 死んでいるのに、その駄目押しが爺さんの説教じゃ死に切れない。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・ごめん、けど・・・・・・・・・・・・・・・・・」
他に方法なんて思いつかなかったんだ。
呟く声が消えて、もう寒さが首の辺りにまで来ている。
これが最期なのだろう。
僅かに動く首を巡らせる。
頭上には瞳のような白い月。
その光を一身に受けた最愛の人。
その彼女に向かって、渾身をこめて言葉を出す。
「あ、り・・・が・・・・・・と・・・・・・・・・・」
かつて、親友と話した。
自分が死ぬときに言いたい言葉。
それがいえて、満足したのか。
死を視続けた眼は深い深い闇に包まれて。
そうして意識も堕ちていった。
「死んだ、か。無理もあるまいな」
青年の死を心の底から惜しみながら、魔法使いは絞るようにして声を出し、僅かに息を吐いた。
青年と玉座で死の眠りについている姫の亡骸を抱き上げ、一つの櫃に二人を埋葬する。
青年はその原型が残っているのが不思議なほどに破壊されていたが、それに対して姫の方は心臓を穿たれた傷だけ。
故に、狭い櫃の中でも十分に収めることが出来たのだろう。
二人の手を握り合わせてやったあと、蓋と封印を施す。
平行世界同士の隙間、決して干渉し得ない狭間に二人をいれ、永劫に邪魔の入らない場所へと転送した後、魔法使いはふう、 と深い息をついた。
これで、あの二人の亡骸が余人に触れられることは無い。
姫君の肉体は消えるかもしれないが、青年の肉体、特に彼の魔眼を調べたがる馬鹿者どもの手に渡るのはこれで完全に防げた はずだ。
「まあ、遺体を丁重に扱っても、だからどうしたという程度なのだがな」
自嘲の笑みを浮べ、今度はやや重い息をついた。
思ったのはあの青年のこと。
世界と契約をした。
それが意味するのは、永劫の地獄を見続けるということ。
そうまでして殺したかったのか。
そうまでしなくては殺せなかったのか。
恐らくは、そうであったのだろう。
死を視る魔の眼でも、あの朱い月の王を殺すのは不十分だったということか。
「願わくば、彼の魂に安息の眠りを」
決して届かない祈りの聖句を切る。
「そうさな、あの杯をもってすれば、或いはその呪縛も解けるやもしれんが」
それだけを言い残し、魔法使いもまた、王のいなくなった城から去った。
これは一つの終幕。
遥か未来、無限に広がる万華鏡の一つの結果。
されど、その中で一人の英雄が、また生まれた。
あとがき
どうも、駄作をせっせと製作しております。憂目です。
さて、我が因縁の連載物に三度(四回目だろうとか言う突っ込みを入れる人は
嫌いです・・・ごめんなさい 汗)挑戦したいと思い、プロット考えていたら
出来上がった序章、いかがでしたでしょうか。いや、序章だけにわけが分かり
ませんね。これだけだと月姫2の架空ラストですし(汗)
ま、まあこれからFate主体で物語が進む予定なので、その辺はどうかご容
赦下さいませ(土下座)
ちなみに感想歓迎、突っ込み上等なのでばしばしBBSに書き込んでくれたり
すると嬉しいです。
話の展開上、オリキャラが複数出てきますので、オリキャラ自体が駄目な方は
早々見切っちゃったほうが安全ですよ〜それでは、次のUPでお会いいたしま
しょう